「もう、帰ってくるんじゃないぞ」
「看守さん…ありがとよ」

男は吹き荒ぶ寒風の中で立っていた。
最初の判決から実に13年、刑が確定し懲役刑に服すこと11年。本来は終身刑のはずであったが、何やらめでたい事でもあったのか、このたび恩赦を賜った。

「何があったのかわからねぇが、なんにせよありがてぇ」

男は大規模なテロを何度も起こしており、本来であれば一生、外には出られないはずの身分であった。
心地よさと冷たさが37対23で混ざりあった空気をひと呼吸。車の音も新鮮だ。
残念ながら檻の外に迎えはいなかった。急に決まった恩赦であり、親しい者にもその情報は伝わりきっていないようであった。

(あいつ、元気にしてるかな)

男のいない間に世間は様々に変わってしまったかもしれない。しかし妻だけは俺の事を待ってくれているだろう。
そう信じて男は《家路/Homeward path》に向かう。道の途中、何やら悪魔のような形相でこちらを睨んでいた若造がいた気もするが、久しく他人に会っていなかった男はその悪意に気づく事もなかった。

男は久しぶりの自宅に着く。懐かしい匂いだ。生まれ故郷のベルギーにも似たこの匂い。しかしそこに妻の姿はなかった。
(買い物にでも行っているのかもしれない)
そう考えた男は時間をつぶすため電気街に向かった。意外なことに元来オタク気質のあるこの男、実に10年以上も新製品のチェックができていないともあればそちらに足がむくのも道理であった。

そこに、妻はいた。

先ほどの悪魔のような形相の男とアニメイトでデートしている妻の姿を、男の目は捉えてしまった。
悪魔は妻に「残りの人生をくれたなら、望みの物を買ってやる」と甘い言葉を囁いた。嬉しそうに頷く妻の顔が、見えた。

13年連れ添っていたと思っていたのは男だけだった。男のいない間に妻は新しいパートナーをとっかえひっかえしていたらしい。最新のパートナーはさっきの悪魔というわけだ。
男は妻や悪魔だけではなく、この世界全てを憎んだ。
そうだ、またあの頃のように暴れてやる。世界全てを悪夢に陥れてやる。


男は復讐のため、また大規模なテロの準備を始める。妻を、悪魔を、そして全てを巻き込むために。
以前、「世界喰らい」の二つ名で呼ばれたその時の様に。

注: この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。

コメント

風見
2015年2月24日18:58

グリセルブランドと(り)アニメイトする妻役のカードがなんやろう・・?

うぃん
2015年2月24日19:12

アニメイトデート(小声)

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