「ちょっと書くもの貸してください。」
患者への説明のため絵を書こうとしたところ、手持ちにボールペンがない事に男は気づいた。
1ヶ月前に家から10本ほども持ってきたはずなのに一体どこに消えていくのかと一瞬考えたが、まあそこかしこに忘れているのだろう。
こういった職場ではボールペンは天下の回り物と呼ばれる。大体は出入りの業者の社名が書いてあるようなボールペンなので、それぞれの見分けはつかない。失くしたくないのならばちゃんと名前を書いておかねばならぬ。
ボールペンを借り、説明を行う。患者へ挨拶をしてパソコンに向かう。カルテに書き込む。「大きく変わりなし」

男は小さく伸びをした。
朝からの外来。この外来というのはなかなか骨の折れるものなのだ。
身体的にはせいぜい肩がこる程度であるが、注意を全方向に向けながら会話するのは、さながらハンターハンターの「円」の如く気力を消耗するものなのである。ちょっとした手術の方が余程気は楽なものだ。
その日の最後のひとりを診終わった後に疲れから小さく伸びをしたとして誰が責められようか。
腹も減ってきた。そろそろ2時にかかろうというところであり、当然といえば当然である。
(そういえば塩辛が残っていたな。あれをサラダの上からドレッシングがわりにかけてみるか。)
ボンヤリとそんなことを考え席を立つ。

ボールペンのことを忘れていた。いくら天下の回り物とはいえ、気づいたのならば返さねば。
それにしても、いつも使っているボールペンとは少し手触りが違ったな。どこの会社のものだろうか。
手に持ったペンをくるりと返してそちらを見やる。
そこには見慣れたあのマークと文字が並んでいた。

「晴れる屋」


注: この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。多分。
各地でウギンの大量虐殺が行われている
近頃、多元宇宙の各地でウギンの大量虐殺が行われている。
しかも彼らの目的はその大きなウギンの肉ではないという。
ウギン狩りをしていた若者を捕まえ、話を聞いてみた。

ナレーター「なぜウギンを狩るのですか?」
若者「金になるんだよ!この頃ウギンの目が高騰してるんだ!」

彼らの後ろには無残にも目を抉り取られた大量のウギンの死体の山、山、山。
ウギンは大変頭が良く古来人間の友であった。そのようなウギンを目のためだけに虐殺するような事をしていいのだろうか。このままだとウギンが絶滅してしまう。

ナレーター「絶滅してしまったらどうするんですか!?」
若者「知らないのか?精霊龍の墓もプロツアーで使われてたんだぜ?」
「もう、帰ってくるんじゃないぞ」
「看守さん…ありがとよ」

男は吹き荒ぶ寒風の中で立っていた。
最初の判決から実に13年、刑が確定し懲役刑に服すこと11年。本来は終身刑のはずであったが、何やらめでたい事でもあったのか、このたび恩赦を賜った。

「何があったのかわからねぇが、なんにせよありがてぇ」

男は大規模なテロを何度も起こしており、本来であれば一生、外には出られないはずの身分であった。
心地よさと冷たさが37対23で混ざりあった空気をひと呼吸。車の音も新鮮だ。
残念ながら檻の外に迎えはいなかった。急に決まった恩赦であり、親しい者にもその情報は伝わりきっていないようであった。

(あいつ、元気にしてるかな)

男のいない間に世間は様々に変わってしまったかもしれない。しかし妻だけは俺の事を待ってくれているだろう。
そう信じて男は《家路/Homeward path》に向かう。道の途中、何やら悪魔のような形相でこちらを睨んでいた若造がいた気もするが、久しく他人に会っていなかった男はその悪意に気づく事もなかった。

男は久しぶりの自宅に着く。懐かしい匂いだ。生まれ故郷のベルギーにも似たこの匂い。しかしそこに妻の姿はなかった。
(買い物にでも行っているのかもしれない)
そう考えた男は時間をつぶすため電気街に向かった。意外なことに元来オタク気質のあるこの男、実に10年以上も新製品のチェックができていないともあればそちらに足がむくのも道理であった。

そこに、妻はいた。

先ほどの悪魔のような形相の男とアニメイトでデートしている妻の姿を、男の目は捉えてしまった。
悪魔は妻に「残りの人生をくれたなら、望みの物を買ってやる」と甘い言葉を囁いた。嬉しそうに頷く妻の顔が、見えた。

13年連れ添っていたと思っていたのは男だけだった。男のいない間に妻は新しいパートナーをとっかえひっかえしていたらしい。最新のパートナーはさっきの悪魔というわけだ。
男は妻や悪魔だけではなく、この世界全てを憎んだ。
そうだ、またあの頃のように暴れてやる。世界全てを悪夢に陥れてやる。


男は復讐のため、また大規模なテロの準備を始める。妻を、悪魔を、そして全てを巻き込むために。
以前、「世界喰らい」の二つ名で呼ばれたその時の様に。

注: この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。
株式会社キッターミ(読み物)
「「「我ら!キッターミのために!」」」

朝礼はいつもの宣誓で散会した。ゲッセイルは本日の業務を始める。

「出張だ!ジャンドへのポータル往復チケットを取っておけ!ビジネスクラスでな!宿泊は予約しないでいい、こっちでどうにかする!」
「ウォータルからの反応がない?アイツを向かわせろ!依頼料は1000ドルもあればいいだろ!」
「アヴァシールへの破壊工作はどうなっている?───うむ、そうか、ご苦労」

ゲッセイルはあらかたの業務に目を通し、一息つく。
天下の総合商社、株式会社キッターミは常務としてゲッセイルを据えている。社是は「暮らしに笑顔を 初手に土地を」。しかし裏では各所の騒乱を裏で操る死の商人としての顔も併せ持っていた。
ひと通りの指示を出し終え、コーヒーを飲みながら新聞に目を通すゲッセイル。その視線の端になにやら不穏当な文字が引っかかった。



『適者生存解禁!                     



有能な男は数紙の新聞を同時に読む。なかにはいかがわしい新聞も存在しているが、ある程度公平な観点をもつために敢えてそういった新聞にも目を通す。
そんないかがわしい一紙、ドナミリア新報(通称どーしん)にその文字は踊っていた。
適者生存といえば度重なる環境破壊のために環境保護団体の陳情を受け、現在も大陸全域で使用及び所持、販売が禁止されている薬物である。
無論キッターミにも表立って適者生存を取り扱うような部門はない。しかしゲッセイルは先日ライバル社アヴァシールへ商談という名の偵察に行った際、廊下の隅で2人の男女がこそこそ囁いていたのを聞いていた。

「………生存……………………」「適者…………儲け……ウーズ……」

囁く声はミューズのようで、全てが聞こえたわけではなかった。しかし。

(アヴァシールはなにか情報を掴んでいる!)

聡明なゲッセイルはその内容を悟り、行動に出た。



実は政府による適者生存容認論は政財界のトップの間で以前から噂されていた。曰く、要人の息子に中毒者がおり、事あるごとに解禁を迫ってくると。
ゲッセイルは偵察のその日から、機を見るに敏に適者生存関連の工場の買い上げを進めていった。



どーしんとコーヒーを手にゲッセイルは思い返す。

(やや強引な手も用い、時には株主総会で突き上げも食らったが、やっと報われるというものだ。工場から追いd…穏便に出て行ってもらったあのセファリッドの親子、元気でやっているだろうか…。)

この記事を一笑に付すのは容易いが、こういった記事が実は本物のリークであったという例は枚挙にいとまがない。
ゲッセイルが裏を取りに行ったところ、アヴァシールも関連会社の株式を多量に入手していることが判明した。
すでにある程度遅れをとっているが背に腹はかえられない。ゲッセイルはすでに上がり始めていた株式を入手しに動く。昨日まで25ドルだった株はその日の引けで50ドルの値をつけた。

(少し儲けそこなったがまあいい、これまでの間に多量の工場を買収した功績を考えれば私もこれで専務だ…。)


───しかし翌日、そして翌週、さらに翌年の国会でもそういった法案は出てくる兆しもない。
徐々に関連株の値も下がり、関連工場も維持費がかさむ一方。

「なぜだ…」

頭痛で意識の薄れるゲッセイルの脳裏にあの時の囁きが、今度は《軍族の雄叫び/Howl of the Horde》よりはっきりと聞こえてきた………。


「僕達も生存戦略、しましょうか。」「敵社の人の前で馬鹿なこと言っている前にもう少し儲けを考えなさいよ!あと股間のウーズをしまえ。」


その後、工場の買収の失敗責任をとらされ、左遷となったゲッセイルがジャンド支社へと向かう途中、その横を貧しいながらも幸せそうなセファリッドの親子が通り過ぎていった。

注: この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。
「8マナ3ドロー、流石に重すぎるな。WotCはこの頃臆病すぎないか?」

スポイラーを読みながらうぃーは独りごちた。リストに刺激が足りない。うぃーは刺激に満ちていたミラディンの傷跡ブロックを思い返す。4マナで7点以上の打点を生み出す白英雄、誤植を疑った抹消者、そしてファイレクシアマナ…。今回はフェッチランドが入るようで、それだけでこのエキスパンションが売れるのは確実だ。そのためWotCも他にパワーカードを刷る気が無いのだろう。
馴染みの店で一応買った箱を適当に剥いていく。近頃はあの鼻に「クる」刺激もないようだ。

『使ってみろよ…』
『お前はあまりこの頃青を使っちゃいないようだが、どうした?』
『打ち消しとドロー、そして《むら気な魂/Wayward Soul》でこさえたデッキを使っていた頃のお前はどこ行っちまったんだ?』

うぃーは振り返る。小さな声がどこからか聞こえてきたが一人暮らしの部屋に誰もいるわけもない。

『そっちじゃねーよ、お前が今持ってるカードさ』

───うぃーの左手には《宝船の巡航/Treasure Cruise》があった。

『1マナで3ドロー、夢みたいだろ?』

「お前はレガシーデッキに入っていけるパワーを持っているのか?まあ、そもそも俺はこの頃、青は使わないんでな」

『そうかよ、後悔するぜ』
そう言ってそのカードはすぅと消えていった。


数日後、明日は不可避的レガシー大会、うぃーはたまにしか行けないがその分楽しみにしている大会だ。このところ仕事が忙しくあまり準備もしていなかったのでデッキはいつもの土地単か、はたまたポックスリアニか。決めあぐねてメタの予想でもしようとサイト巡りをし始めると、”URデルバーが強い” “URデルバー最強” “URデルバーんぎもぢぃぃぃ”といった情報が目に飛び込んできた。

「デルバー…しかも2色?RUGの劣化ってイメージしかないけど…?」

『俺が変えちまったのさ、”環境”ってのをな』
またあの声がした。今度ははっきりと聞こえてくる。

『気持ちいいぜ?3ドローはよ。聞けばお前、《Ancestral Recall》も持ってはいるけど打ったことはないんだって?この童貞ヤローが。好きなだけドローさせまくってくれる優良風俗店でも紹介してやろうか?』

邪悪な囁きが耳を通じず直接頭に入ってくる。

「うるさい!俺は自分のドローで明日を切り開く!お手軽養殖ドローなんかに負けるか!」

『明日が楽しみだな。お前の友人、果たして何人が俺を使わずにいられるのか…』

うぃーはデッキ制作にとりかかった。あの邪悪なカードに打ち勝つデッキを…。



翌日、不可避的レガシー大会は某公民館で行われた。いつもと同じ友人たちの中に、会場にはあきらかに眼の色のおかしな友人たちが混じっていた。

「ぐへへへへ、3枚引く…気持ちいい………3…キモ…」

その中の一人、りょ~君は時折このような声を発しており、それは悪魔のカードに魅入られたことを察するに余りある状態であった。

「りょ~君、どうした!しっかりしろ!」

「あ、うぃーさん…知ってますかぁ…?今どきは1マナで3枚引けるんですよ…ぐへへへへ…」

「そんなうまい話があるわけ無いだろ!りょ~君はあいつに騙されているんだ!」

りょ~君、必ず君を正気に戻す。うぃーはそう誓いながらデュエルに臨む。《Chains of Mephistopheles》入りの特製デッキを携えて。

うぃーには『あの声』はもう聞こえなくなっていた。



───後日WotCは異例の禁止処置を執る。実際は悪魔のカードによる深刻な健康被害、環境汚染をFDCA(アメリカ食品医薬品カード局)に咎められた形であったが、それは公表されずカードパワーによるものとされた。

注: この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。 あと登場人物はみんなみーんな18歳以上なんだからね、おにいちゃん。

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